「薫煙肉(ハム)の中の鉄」山田正紀…編:豊田有恒『ロマンチックSF傑作選』収録

 先日のレビュー後に筒井康隆、高齋正、山田正紀の3篇を読みましたが、仔細に紹介している時間がないので、その中では一際優れていると思えた山田正紀の一篇を紹介します。

 世界戦争か何かで、人類が文明を失った世界。焼けた荒野に残ったわずかな人間たちは二つのグループに別れた。野菜しか食べない“草喰い(カウ)”と、互いに人肉を食べ合う“人喰い(マン)”である。“人喰い”でありながら“草喰い”を食べ、しかも薫煙肉(ハム)を作って保存までする殺し屋「屠殺兄弟」に対し、再び文明を持つ事に危惧を抱く男が死闘を挑む…。


 終末後の世界を描く作品は珍しくありませんし、「高度な文明を持つ事が破滅に繋がる」という題目も半村良『太陽の世界』をはじめ多くの作品で描かれています。ではこの山田正紀の短編が何故面白いかというのは、その設定世界で生きる漢(おとこ)の魅力、この一点に尽きると思います。
 山田正紀の描く男はいつも、珍しいくらいに男性的です。自分の生き様に対し過分に自覚的で、短絡的で、且つ偏執的。『イノセンス』のバトーにしてもそうですし、『地球・精神分析記録』『最後の敵』『崑崙遊撃隊』…ほぼ全作でそうですから、数える必要はなさそうです。本作の主人公は報酬など考えず己に「使命」を課している点で「アマゾン・ゲーム」という短編に特に近い印象を受けます。つまり私の好きなタイプって事ですが^^;
 ストーリーは単純明快で、「人喰い」同士がいがみ合って、騙し騙され、殺し合う。その中で殺し屋同士の愛憎ともいうべき感情の流れを描き、やや意外性のあるラストまで、読者を巧みに引きずり込み一気に読ませてくれます。
 これはロマンチック、なのかしら。すごく男臭いけど、ある意味凄いロマンチックな気もします。とにかくお勧めです。これが気に入ったなら、安心して山田正紀ワールドに入って来られます。そんな一篇。