地には平和を (新風舎文庫)

地には平和を (新風舎文庫)

 いい本ですね。小松左京氏の初期SFが十篇詰まっている短編集です。最近ハルキ文庫でも同じような「小松左京傑作選」が出されていますが、こちらは1962,63年の2年間に発表された、完全に初期の作品群で固めています。

  • 「地には平和を」
  • 「終わりなき負債」
  • 「易仙逃里記」
  • 「釈迦の掌」
  • 「蟻の園」
  • 「コップ一杯の戦争」
  • 「失格者」
  • 「時の顔」
  • 「ホクサイの世界」
  • 「お茶漬けの味」
  • 「紙か髪か」

 何れも充分に面白い作品ですが、特に「地には平和を」「易仙逃里記」「紙か髪か」あたりのアイディアの切れが堪りません。「コップ一杯の戦争」は僅か5頁だというのに、もうたまらない面白さです。「蟻の園」は、後の「果てしなき流れのはてに…」にも見られる“時空間の狭間”が出てくるホラーで、気持ち悪いような、妙に高揚する読後感を味わえます。
 全体として「時間テーマ」に属する作品が多い感じがしますが、それら一篇一篇も情緒に溢れるもので、小松左京の懐の深さが伺えます。
 「お茶漬けの味」に脱字が多い点を除けば、読みやすい書体ですし、これだけの作品が読める新風舎文庫は注目に値すると思います。ただ、基本的に自費出版の延長で復刊を手掛けているようなので、本書以外にSFが刊行されているという話は聞きません。残念至極。