「世界樹の高みに」田中光二…豊田有恒:編『ロマンチックSF傑作選』(集英社文庫)収録

 ちょっと前に古本屋で見つけて、執筆陣のあまりの豪華さに眩暈を覚えつつレジに向かい、ほくほくしながら帰ったっけ。
 田中光二のものは3つ目で、この前に小松左京平井和正の短編があります。

  • 小松左京「人魚姫の昇天」は、有名な童話を強引にSF解釈するという、その道ではよくある手法を使った一篇。悲恋の話という以前にグロテスクな描き方で、どうにも「ロマンチック」には読めないですよ小松センセイ…。わずか5ページで落すのも流石に性急な感じが否めません。
  • 2つ目は平井和正「死を蒔く女」。精神科医の元を訪れた女が「自分は念じた人間を殺してしまえる」と訴え、まさかと思う精神科医は目の前で実践させるが…。これまた『異形コレクション』にでも入っていそうなホラー作品です。
  • 3つ目の田中光二世界樹の高みに」は、自然の中で生活するヒッピー・コミューン(文中では“ジプシー”と言っていたかな?)に迷い込んだ奇妙な男の話。ドラッグ・バイオレンスなどをふんだんに取り入れたハーラン=エリスンを思わせる一篇ですが、異邦人(エイリアン)というテーマが凄く綺麗に、格好良く描かれています。これはロマンチックですねぇ。

恥ずかしながら田中光二は初体験だったfuchi-komaですが、これは…ファンになってしまいそうです。アンテナにビビッときましたよ。要チェキです。
 いやまったく、こういう出会いがあるから、アンソロジー短編集はたまらないですね。